2013年11月30日 梅谷先生お帰りなさい

青森県八戸市民病院で臨床研修をしている梅谷一公先生が病院説明会のため徳島にこられました。救急医療に興味があり八戸市民病院で研鑽をつまれております。メディカルラリー、ドクターヘリ、ドクターカー、ICLSを中心としたコース、シミュレーション教育など充実した研修生活を送っておられました。3年後、一緒に働けるのを楽しみにしています。

2013年10月 第13回日本プライマリ・ケア連合学会四国学術集会

寄りそい医の学会、第13回 日本プライマリ・連合学会四国支部学術集会が高知県で開催されました。海部病院から5題発表しました。学会活動も積極的にしています。写真は徳島大学総合診療医学分野ホームページで。

発表した演題の抄録をあげておきます。

Ⅰ-4.海部病院遠隔診療支援システム(k-support)を用いて rt-PA を投与し、ドクターヘリ搬送による“drip and ship”法を試みた急性期脳梗塞の 1例 

○小幡史明 1)、田畑良 1) 2)、湯浅志乃 1) 2)、森敬子 1)、河野光宏 1) 2)、影治照喜 3)、岡 博文 3)、谷憲治1) 2)、坂東弘康1) 

 1)徳島県立海部病院総合診療科、2)徳島大学大学院総合診療医学分野 3)徳島大学病院 地域脳神経外科診療部 

【背景】2005 年に、発症 3 時間以内の超急性期脳梗塞患者に対する rt-PA 投与が認可され、その有効性が報告されているが、実際の投与適応は全脳梗塞患者の約 5%程度であり、医療過疎地域では適応症例があってもその実施は困難である。今回、我々は急性期心原性脳塞栓症に対して、海部病院遠隔診療支援システム(k-support)を用いて画像診断を行い、rt-PA の急速静注投与後に高次機能病院へドクターヘリ搬送しながらの持続静注投与を行う“drip and ship”法にて良好な結果を得た1 例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。 

【症例】89 歳、女性、心原性脳塞栓症 

【現病歴】朝 7 時 15 分(発症時)頃、左片麻痺と右共同偏視で発症した。心房細動がありワーファリン内服中であった。 

【来院後経過】 

 発症後 30分:当院救急搬送。 

 発症後 71 分:頭部 MRI 検査を施行。拡散強調画像にて MRI で右中大脳動脈閉塞によるその

支配領域の急性期脳梗塞を認め、心原性脳塞栓症と診断した。 

 発症後 125 分:k-support を用いて病院外(徳島市に所在)の脳神経外科専門医にコンサルテ

ーションを行い、rt-PA治療の適応条件と禁忌条件を確認して治療実施を決定した。 

 発症後 153 分:総合診療医が rt-PA を急速投与(1 分)し、持続投与(1 時間)を継続しなが

ら高次機能病院へのドクターヘリ搬送を決定した。 

 発症後194 分:高次機能病院へ向けてrt-PAを持続投与しながら離陸。 

 発症後 215 分:高次機能病院到着しrt-PA の投与を終了した。 

 発症後 24時間:頭部MRI では右中大脳動脈の再開通と片麻痺の改善を認めた。 

【考察】急性期脳梗塞に対する rt-PA の投与にはその時間的制約から MRI による正確な画像診断と迅速な高次基幹病院への搬送が必須である。従来の遠隔画像診断にはコストがかかることや救急時に対応が困難であることから、脳卒中診療に対して日本ではまだ浸透しておらず、ドクターヘリ搬送後の投与では投与開始が遅くなり、閉塞血管の再開通率は低いと言われている。 

【結語】救急対応可能な海部病院遠隔診療支援システム(k-support)による画像診断とドクターヘリ搬送による “drip and ship”法を行った急性期脳梗塞症例を経験した。当院の様に地理的不利な条件下にある病院において、ドクターヘリ搬送は必須かつ有用な手段であると言える。また、治療に至るまでの時間的損失を最小限にするためにも、遠隔画像システムを利用した“drip and ship”法が安全であり医療過疎地域に適した方法であると考えられる。 

Ⅰ-5.徳島大学病院超音波センターと徳島県立海部病院間の心エコーによる遠隔診断支援システムを運用して 

○田畑良1)、山田博胤4)、西尾進 3)、井口明子5)、三橋乃梨子5)、小幡史明5)、西田結香2)、川人圭祐 2)、多田紗彩 2)、原田貴文 1)、梅谷一公 1)、伊藤潤 1)、中西嘉憲 1)、河南真吾 1)、湯浅志乃1)、清水伸彦1)、山口治隆1)、河野光宏1)、佐田政隆4)、谷憲治1) 、坂東弘康5) 

 1)徳島大学大学院総合診療医学分野、2)徳島大学医学部医学科、 

3)徳島大学病院超音波センター、4)徳島大学循環器内科、5)徳島県立海部病院 

【背景】第 12 回日本プライマリ・ケア連合学会四国ブロック支部大会にて徳島大学超音波センターからへき地の救急病院である徳島県立海部病院へのリアルタイムによる心エコー遠隔診断支援システムについて報告した。この1年間で 10 数例の診断支援を受けたが、実際運用してみてそのシステムの有益性、問題点について検討する。 

【方法】徳島県立海部病院において心エコー非専門医が施行する心エコー検査で問題のある症例を、

徳島大学超音波センターの超音波指導医および心エコー図学会認定専門技師が、リアルタイムでモ

ニタリングし、アドバイスを受け、今後の治療方針を決めた。 

【結果】16 例の症例の内訳は、壁運動異常の相談が 4 例、弁膜症の評価の相談が 4 例、心筋症の評価の相談が4 例、心エコーの所見の評価が難しかったのが2例、心エコーで原因がわからないため相談したのが2例であった。結果として、虚血性心疾患疑いが2例、心筋症疑いが3例、弁膜症疾患が1例、肺疾患の精査の指示が3例、経過観察指示が7 例であった。そのうち、5例が循環器専門施設への紹介となった。相談症例は虚血性心疾患や肺疾患が疑われる症例や、心不全が合併しており緊急を要するといった症例が多かった。待機的に判断してもよいものは、後日循環器内科に直接紹介している。 

【考察と結語】超音波検査は、非侵襲的で得られる情報が多いことから、ほとんどの診療科で利用されている検査である。また緊急性のある循環器疾患において心エコーは高次機能病院への転送が必要かどうか判断する有益なツールである。しかし正確な検査をおこなうためには検査者に技量が必要とされる。正確な診断を行うためには、検査を行う医師、検査技師がトレーニングを積み、その技術を身につけておく必要がある。リアルタイムで相談できる遠隔診断支援システムはへき地の救急病院にとって有効であると思われた。また1年間運用してみて問題点や展望についても考察する。 

 

Ⅲ-5.生物学的製剤を投与中に呼吸器感染症を併発した関節リウマチの2症例 

○伊藤潤1)、湯浅志乃1)、中西嘉憲3)、田畑良2) 3)、清水信彦3)、山口治隆3)、河野光宏2)、谷憲治3) 

1)徳島県鳴門病院、2)徳島県立海部病院、3)徳島大学大学院総合診療医学分野 

関節リウマチ(RA)は慢性の炎症性疾患であり、腫瘍壊死因子(TNF)や炎症メディエータ―(IL-1、IL-6)といったサイトカインが病態の主座を占めている。近年TNF阻害薬をはじめとした生物学的製剤(Bio)が開発され、これまでの治療薬では困難であった骨破壊の抑制も可能となった。しかし、呼吸器感染症をはじめ重篤な感染症の発症リスクも高く、使用に際しては十分な注意が必要である。 今回Bioを投与中に呼吸器感染症を併発したRAの2症例を経験した。 

【症例1】62歳女性。罹病期間8年。2008年8 月よりInfliximab(IFX)およびmethotrexate(MTX)

を開始した。導入時の胸部Xpでは異常は認めず、ツベルクリン反応は陰性であった。Bioの効果を認め継続していたが、2013年7月に感冒症状を訴え、胸部Xp・CT検査で異常影を認めた。気管支洗浄液でM.aviumが同定され非結核性抗酸菌症と診断し、多剤化学療法を開始した。IFXおよびMTXは中止しており、RAの疾患活動性の悪化を認めている。 

【症例2】67歳女性。罹病期間15年。2010年 2月より etanercept(ETN)およびMTXを開始した。導入時の胸部Xpは異常なく、ツベルクリン反応は陰性であった。2013年8月より発熱と咳嗽認め、胸部Xp・CT 検査で異常影を指摘された。気管支洗浄液でPneumocystis jiroveciiが同定されニューモシスチス肺炎(PCP)と診断し、ST合剤を開始した。投与10日目にST合剤による皮疹・発熱を認めたが、陰影改善あり終了した。PCPに対しステロイド併用しており、ETNおよび MTXは中止後もRAの疾患活動性は悪化なく落ち着いている。 今後のRA治療および呼吸器感染症について若干の論文的考察を加え報告する。 

 

Ⅲ-6.地域中核病院における睡眠時無呼吸症候群の診療状況 

○湯浅志乃1)、伊藤潤2)、中西嘉憲3)、田畑良1) 3)、清水信彦3)、山口治隆3)、河野光宏1)、谷憲治3) 

1)徳島県立海部病院、2)徳島県鳴門病院、3)徳島大学大学院総合診療医学分野 

【背景】睡眠時無呼吸症状群(SAS)は、睡眠時に無呼吸を呈することにより、眠気や倦怠感など様々な臨床症状を呈する症候群である。患者数は360万人(人口の2~4%)とも推定されるが、実際はまだまだ認知されていないことが多い。SAS は、上気道虚脱による閉塞性と睡眠中の呼吸ドライブの消失による中枢性とに分類されるが、自宅でも可能な簡易検査では判別ができず、確定には終夜睡眠ポリソムノグラフ(PSG)検査が必須である。 

【対象】平成 24 年 11 月から平成 25 年 6 月までに徳島県立海部病院で SAS が疑われた患者 12 名、簡易検査およびPSG検査の結果とその併存疾患、経過を検討する。

【結果】12名中簡易検査のみでSASと診断されたのは3名、5名がPSG検査を施行し4名がSASと診断された。うち 1 名は簡易検査では軽症であったが、PSG 検査で中等症と診断された。6 名が持続的気道陽圧(CPAP)療法を導入した。不整脈の合併がある症例では、中枢性睡眠無呼吸を伴うcomplex SASを認めた。 

【まとめ】眠気や倦怠感の有症状者に加え、生活習慣病患者の中にはSASが影響している可能性もあり注意が必要である。 

 

Ⅳ-2.地域医療を守る住民啓発活動のあり方 

○加藤修平1)、湯浅志乃4)、伊藤潤2)、中西嘉憲4)、田畑良3)4)、清水信彦4)、山口治隆4)、

河野光宏3)、谷憲治4) 

1)徳島大学医学部医学科、2)徳島県鳴門病院、3)徳島県立海部病院、 

4)徳島大学大学院総合診療医学分野 

【背景】徳島県は人口当たりの医師数が全国で三番目に多い県であるが(平成22年)、県南部や県西部では医師不足の問題があり地域の偏在を認めている。県南部の中核病院である県立海部病院でも医師の減少による医療崩壊を認め、地域住民による「地域医療を守る会」が発足され、様々な活動が開始された。

【目的・対象】県立海部病院に勤務する医師を対象にアンケート調査を行い、徳島県の地域医療の現状と対策について、また地域医療を守る会の住民啓発活動とそのあり方の検討を行った。対象は、県立海部病院に勤務する常勤および非常勤医師13人。 

【結果】ほとんどの医師がやりがいを感じているが、通勤手段や常駐による不安など生活面・診療面の問題点を感じていた。地域医療を守る会の認知度は勤務条件にも影響し、その活動に対する感じ方にも差を認めたが、勤務のストレス軽減につながっていた。今後求める活動としては、救急外来へのコンビニ受診に対する対策を希望するとの意見が挙がった。 

【まとめ】地域医療を守る会の住民啓発活動によって地域医療の問題を緩和する可能性があると思われた。